こんにちは、ルアーデザイナーの長井です。
6月に入り、この時期特有の空模様に少し気分の晴れない日が続いていますが、今年は例年になく、各地で釣れているという情報が耳に入ってきます。
不思議なことに、釣れている年には日本各地で釣れているという話をよく聞き、逆に、釣れない年には至るところで釣れていないという話が舞い込んできます。
毎年、同じように繰り返す日本の四季にも多少のズレがあり、日照時間、水温、水質、気圧、風向きに強さ、そして月の引力が及ぼす水面の干満差など、様々な要因がバスの行動にも影響を与えているためでしょうか。
| バスロイドJrトリプルダブル |
ここ最近のラボでは、開発の手から離れたバスロイドJrトリプルダブルが量産軌道に乗り「来週はバタバタした仕事から少し解放だ」と肩の荷がおりた週末の休みを過ごしていた。
そんな矢先に突然、テーブルに置かれたスマホがけたたましく鳴り響き、着信画面を見ると「イマカツ水谷」という文字が飛び込んできた。
休日に珍しく何の要件かなと、この時スマホを手にしたのが、後のブータフロッグ呪縛の始まりとは知る由もありませんでした。
| ブータフロッグ |
水谷「もしもし、水谷です。お疲れさまです」
私「お疲れさん」
水谷「長井さん明日会社来られますか?」
私「通常通り行くで、どうした?」
水谷「明日、薮田さんが会社に来るので、薮田フロッグカラーの打ち合わせをしたいのですが」
私「フロッグカラーの打ち合わせ!?......」
この時私は、薮田フロッグのスタンダードカラーは既に決定していて、薮田オリジナルカラーを1~2色作るだけだと思っていたため、二つ返事で引き受けた。
と言うのも、薮田フロッグに関して、私は一切開発に関わっておらず、薮田君とフロッグ生産業者が直接やり取りをしていたからです。
翌日、全身褐色化したナイスガイ(死語!?)の薮田君がタックルボックスを片手にやってきた。
そのタックルボックスは蓋を閉じているにもかかわらず、フロッグに取り付けているラバースカートらしき物体が蓋の隙間から四方に飛び出ていた。
タックルボックスの蓋を開けると、フロッグ特有の鼻につく異臭、そしてメーカー問わず色とりどりのフロッグで埋め尽くされたボックス内は異様な光景であった。
「かなりのフロッグマニアだな」と私は心の中で呟いた。
この薮田君が開発したブータフロッグ、首振りしない!? ではなく、首振りさせることが非常に難しく、TOP50選手でさえ動かすことのできるのは数名と言われる、難透難解な癖ありガエル。
「このフロッグ、一般アングラーに使いこなせるの? 首振りさせることができるの?」と私は薮田君にぶつけてみた。
「コツさえ掴めば動かせます!」と薮田君は即答し、「ちょっとタックル持ってきます」と言い、車に積んであるフロッグタックル一式を持ってきた。
薮田君は徐に、フロッグをプールサイドにピッチングし、フロッグにアクションを加え始めたと同時に一瞬目を疑った。
イマカツ社内で誰一人動かせなかった、一見無骨なブータフロッグが、心地よいスプラッシュ音を奏でながら、360°近い見事なテーブルターンをしていたのです。
「こんなテーブルターン、見たことない!!」 と驚きを隠せなかった。
と、カラーリングの打ち合わせがブータフロッグ談議へと脱線してしまうほどの衝撃だったのです。
| 細部に至るまで良く考えられたボディ形状。 |
「カラーリングの打ち合わせを始めようか?」と私が舵を切ると、薮田君がカラーリストの書かれたノートの切れ端を取り出し、そこに書かれていたカラー名らしき項目が十数個、目にとまった。
私は「少し嫌な予感がしつつも、今日は何色決める?フロッグはいつ発売なん?」と聞くと、「全部で10色決めて、来月発売です」と答えが帰ってきたではないか。
「来月!?」
来月発売予定なのに一色も決まっていないって!?
話を聞くと、どうやら薮田君のイメージするカラーリングが、依頼先にうまく伝わっていないために、理想とするカラーが一向にできてこないらしく、完璧に近いカラーサンプルを私に作成してもらい、そのサンプルを依頼先に渡せばイメージ通りのカラーリングが出来上がってくると......
時間もあまり無いことだし、十数色に及ぶ薮田君こだわりのカラーについて一つ一つ話を聞いた。
カラーサンプル作成は意外に手間がかかり、ルアーに模様の入っていないベタ塗りや、エアーブラシによるフリーハンドで表現できるカラーリングなら数分で完成しますが、フリーハンドで表現できない模様を入れる場合には、ステンシル(マスキング)が必要であり、模様のデザインも含めると時間は結構かかります。
ましてや、トノサマガエルカラーになると7~9型のステンシルが必要になってきます。
「数日以内にカラーサンプルを仕上げないと間に合わない、急がねば......」
このブータフロッグ、フロッグ本体のみならず、カラーにも相当なこだわりがあるようで、フィールドから得られた経験値が凝縮されたカラーチャートに仕上がった感じです。
| 久々にテクニカルなルアーに出会った。 |
このフロッグ、あなたは使いこなせますか?
それでは皆さん良い釣りを
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