こんにちは、ルアーデザイナーの長井です。
最近、開発室では懐かしい刺激臭が室内中に立ち込め、頭が少々クラクラしそうな勢いですが、皆さんご機嫌いかがでしょうか。
この刺激臭の発生源は、ウッドルアーにコーティングする為のセルロースセメントと言われている透明の液体塗料なのですが、このニオイがするとルアー作りを始めた頃の記憶が蘇ってきます。
| セルロースセメント塗料 |
さて、セルロースセメントを久々に使う機会が有ったので、この塗料について話したいと思います。
私がルアーのコーティングに使われるセルロースセメントを知ったのは、今から30数年前のフィッシングショーの会場で、とある実演を行っているコーナーでした。
当時、私は小学5年生で同級生とその友達の叔父さんに、フィッシングショーへ誘われて付いて行ったのが生涯で初めてのショーであり、あれから今日までほぼ毎年欠かさずフィッシングショーに行っています。
その頃の私は、ルアー作りはまだ始めてはおらず、1ドルが240円の頃でラパラの9センチミノーが1600円で売っていた時代であったため、小学生には高価なルアーばかりで買えるはずもなく、それならば自分でルアーを作ってみようかなと思っていた。
| ラパラ |
秋晴れの中(当時のフィッシングショーは10月に開催していた)、ショー会場に入るや否や、独特な鼻につく刺激臭が微かに会場に立ち込めていて、何のニオイかと辺りを見回すと、 会場の一角に 数十人の人集りが目に付いた。
その一角は、魚拓やヘラブナ用のウキ、日本の伝統の和竿などを実演で製作しているコーナーの中にあって、その人集りが出来ている方へ興味本位で引き寄せられるかのように近付くに連れ、鼻につく独特な刺激臭が次第に強くなっていった。
人集りを掻き分けてそこで見た物は、一つの小さな机に一人の職人さんが椅子に腰掛け、薄暗く淡いオレンジ色の白熱灯の下で、 皮切り包丁を片手に木塊をサクサクと削っている最中でした。
角々しい 木塊は瞬く間に丸みを持ち始め、9センチ程のミノーシルエットに変化していった。
その間2~3分ぐらいだったでしょうか、あまりの手際の良さに「この人はなんて凄い人なのだろう」と小学生ながらに感じたのでした。
皮切り包丁で大まかに形が整えられると、次に紙ヤスリを取り出し、丁寧に木の凹凸を削っていく。
表面の凹凸が無くなった完成されたミノー形状は、まるで生命を宿したかのように柔らかそうな木片に変わっていたのです。
机には美しい木目の削り出されたミノーが数十個置いてありましたが、皆寸分違わぬ形に仕上げられ 、さらに驚きを覚えた。
次の工程へ行くと思われ、寡黙な職人さんは電気ポット程の大きさで、シルバー色に輝く円柱の缶を取り出し、直径15センチ程の丸い蓋をマイナスドライバーでこじ開けた。
蓋を開けたと同時に、微かに会場に立ち込めていた刺激臭の何百倍ものニオイが、数十人の人集りを包み込み、むせる程の刺激臭に皆涙目になるほどであった。
この刺激臭の元がコーティング剤として使用していたセルロースセメント塗料であり、そして、この職人さんこそが、あのハンクルの製作者、泉和摩さんだったのです。
| ハンクルミノー |
これをキッカケに感化され、私のルアービルド人生が始まった訳ですが、この時の衝撃は私の脳に深く刻み込まれ忘れることはないでしょう。
ニオイじゃなくて木塊を削るテクニックですよ。
このセルロースセメント塗料、硝化綿ラッカーとも呼ばれ、乾燥が早く、薄い塗膜でも強く、浮力を活かしたウッドルアーとの相性は非常に良いです。
また、一度に厚塗りが出来ないため、薄めたセルロースセメントを何度もコーティングするのですが、一度硬化したセルロースセメント塗膜を次のコーティング過程で塗膜表面を溶かして行くために、各コーティングの塗膜同士の密着が強靭です。
要は塗膜同士がくっつき合って最終的に一つの塗膜になると言うことです。
デメリットもあり、コーティング途中に乾燥時間を多く取り過ぎて次のコーティングに入ると、以前の乾燥した塗膜にヒビが入ります。
ヒビを防ぐ為のコーティング回数の目安としては、夏場は最低でも1日に一回、冬場は2日に一回はコーティングすると良いでしょう。
また、湿気に大変弱く、梅雨の時期や雨の日にはセルロースセメント塗料が白化してしまいます。
そのような場合は、リターダーシンナー(白化防止剤)を購入して頂いて、セルロースセメントに数パーセント入れてよく攪拌してから使って下さい。
このリターダーシンナーは塗料の乾燥時間を遅らせる効果が有るため入れすぎは要注意です。
以上の事に注意すれば比較的扱いやすい塗料ですから、皆さんもぜひ世界でたった一つのルアーを作ってみてはいかがでしょうか。
それでは皆さん良い釣りを |