前山智孝 2014年JBクラシック優勝!
昨シーズン終了後、だれがこの結果を予測できただろうか。 モチベーションの強さが全てを変えた。 イマカツスタッフの中でも狩野さんと並び(イロモノ?)濃厚なキャラで知られる前山プロが、JBプロシリーズの3大タイトルの一つ、JBバスクラシックを初制覇した。 TOP50に昇格して既に10年、今年は初のTOP50表彰台獲得、そして初のエリート5出場(シリーズランキング4位)と眠れる(イロモノ?)獅子がようやく永い眠りから目覚めた。 タフな試合ほど強いのが前山。 ワイルドに見えて実は極めて繊細で真面目な男である。 何かを持って生まれた男は、人生で数回、「顔」が変わる時がある。「一皮剥けた」と表現することもあるが、何かのキカッケで今まで出し切れなかった才能が一気に開花する瞬間と言うものがある。 自分自身、幾度もこういったライバル達の「顔が変わる」瞬間を見てきた。10年間、6位は幾度もあれど表彰台5位以内がなかった前山が初めてその壁を突破し、今年初めて表彰台の一角に立った時、彼を頑強に覆っていた最後の一皮が剥けた気がした。 10年間破れなかったTOP50表彰台の壁。 第3戦野尻湖での5位入賞が彼の何かを変えた。 これまで前山のTOP50での立ち位置は、明るいキャラとトークの軽妙さから、結果よりムードメーカー、パフォーマンスで目立つプロだった。ただ、彼の純粋な「釣り」に関するセンス、特に居ると解った時の「魚を喰わせる力」は、長年TOP50に在籍したプロであれば誰もが一目を置く存在である事は紛れもない事実である。 見た目のイケイケさ、怪しさ?とは正反対に、彼のスタイルは実に繊細で丁寧な技術と、実に堅実でクレバーな判断力を併せ持つ。それと同様に、怪しそうな見かけとは裏腹に、根は極めてシャイで真面目な人間である。(それが解るまでに10年かかったけど…) 今では彼が自らを軽いキャラに見せていたのは、彼独特の真面目さの照れ隠しでもあり、同時に秘めた牙のカモフラージュだったことが良く解る。 予選落ちした時のオークションMCが明るいキャラの前山の定番仕事?だったが… その裏に負けず嫌いの悔しさを隠していた。 今だから話せるが昨年シリーズ終了後、様々な事情から前山は2度に亘りTOP50引退、バス釣りからの引退を決意し、その意思を伝えてきていた。それは彼なりの将来を真剣に考えたビジョンでもあり、今春、馬淵が一般企業に就職を決めパートタイムプロとしてTOP50を戦う事を決意した理由にも共通するものだ。自分はこの決断を至極正常な「社会人」としての決断だと思う。 今の日本のバスを取り巻く環境で、バスプロのみを経済基盤として人生を全うできる可能性は奇跡に近い。今だけを見れば99%不可能と言った方がいいかもしれない。 「生活が出来て初めて釣りができる。」夢と現実を真正面から見据えたとき、よほどの資産家でない限り、いい大人なら一度は必ず本気でぶつかる人生の分水嶺だ。 バスプロとして人生を全うするためには今何をすべきか。そのビジョンを明確に持っているプロは極めて少ない。だが、自分が一番したい事、夢と憧れを自ら捨てることほど辛い事はない。それはかつて16年もの間、商社営業との二束の草鞋を履いてバスプロを続けた自分が一番よく解っているつもりだ。 今、自分は50歳を超え、プロ選手としてのピークを過ぎたかもしれない。しかし、まだその闘志は消えてはいない。それはバスプロを生涯続けるために、何をすべきかを常に考えてきたからでもある。幸いにも自分の場合は時代も味方してくれたと思う。 自分が優勝した時のクラシック観客数は実に2万人越え。 NHKサンデースポーツの取材班を同船しての優勝だった。 今、その影はもうない。それが現実だ。 前山がプロを辞めると告げてきた時、これまでの彼の成績を考えれば全力で慰留する意味をそこに見出すことは難しかった。ただ、思い過ごしかもしれないが、彼の秘めた才能、可能性がこのまま開花せず終わる事はイマカツにとっても、バスフィッシングの将来にとっても大きな損失に思えた。 (株)イマカツの代表としては時期尚早、正直、リスクの方が高い賭けに思えたが、この時自分が彼に出した提案が、2015年春からの前山と馬淵によるオリジナル・シグネチャーロッドブランドの設立だった。「自分達のブランドを自分達だけの力で証明してみろ」。プロとして至極当たり前なことだが、それが本当に結果で実行できるプロはほとんどいない。 バスプロとして生き残れるか、その鍵は賞金ではなく、他の経済基盤にある。 営業力、解説力もあり職業漁師に近い知識と技術を持つ前山と、100年に一人の類稀なる狩猟本能を持ちながら、それ以外になんの興味も色気も持たない原始人・馬淵、この二人が一人になれば間違いなく史上最強のプロになれたかもしれない。幸運なことに同世代であり、いまや名実共に業界屈指のロッド作りの名匠となったデジーノ神谷が、彼らの技術的全面サポートを申し出てくれた事で、このプロジェクトを決意できた。 本来、これまで(株)イマカツから提供でスタッフ全員にサポートしてきたEGテムジン/カレイドシリーズで彼らのシグネチャーロッドを出せば、リスクは遥かに少なく何かとメリットも多い。しかし、それでは彼らの独自性、オリジナリティーは薄れてしまう。カレイドの、自分のライバルブランドになってこそ、彼らの存在価値がある。まあ、「なれれば」の話だが。 あれから1年、前山はそのプロトロッドを駆使しTOP50初表彰台に立ち、年間ランキング4位でエリート5初出場、そして遂に3大タイトルの一つ、JBクラシックを制覇し名実共に歴史に名を刻んだ。ちょっと正直、この豹変は信じられない結果だが、明確な目標とモチベーションを持ったとき、人はここまで変われるのだろう。 ちょっと怪しげだが、これだけいい笑顔が出来る男はそういない。いい顔になった。 これで彼らの新ブランドが成功するかどうかは全く未知数だが、少なくともそのスタートラインには立てたと思う。ブランドの詳細等は彼らが公表すべきなので、敢えてここでは紹介しない。しかし、2月の大阪ショーで彼らの口からその全容ははっきりするだろう。 今回、自分の予想を遥かに超えたこの結果は、自分の心境にも少なからず変化を与えてくれたように思う。成長した前山を信じるのではなく、前山が成長する事を信じてやらなければ、結果は付いてこないものだと。 これはゴールではなくスタートに過ぎない。 しかし、彼にとって最高のスタート地点に自力で辿り着いた。 おめでとう! |